最近「白い巨搭」「砂の器」…70年代のヒット作のリメイク(TV)が話題になった。
両作共に高視聴率をあげたが、リアルタイムに映画を見た者にとっては違和感を覚えた人が多いのではないだろうか?映文振センターの事業の一つである「監名会」(年4回)は、そんな観客の要望にこたえるべく野村芳太郎監督の元祖「砂の器」を上映した。8月21日、京橋のフィルムセンターに集まった観客はやはり中高年層が多く見られ、往年の名作への関心の高さを示していた。上映後、ゲストに招かれた撮影監督の川又さんに、映画評論家の野村正昭さんがお話を聞いた。
言うまでもなく松本清張原作の映画化。暗い過去を背負った為に殺人という形で恩ある人々との絆を断ち切ってしまう天才音楽家・和賀英良(加藤剛)の宿命を描くサスペンスだ。迷宮入りしそうな殺人事件を追う二人の刑事(丹波哲郎と森田健作)の執念は、その足を日本列島の北から南へと向けさせる。物語とシンクロするように映画化も大変難航したという。脚本は完成したものの公開されるまでに14年の歳月を待たねばならなかったのだ。
「プロデューサー側の<病気>を扱うことへの嫌悪感が大きく、一時は東宝で公開するという話まで出たが、原作者の理解と脚本を書いた橋本忍さん(山田洋次さんとの共作)と野村芳太郎監督の執念によって公開にこぎつけた、二人の迫力に圧倒された」と川又さんはしみじみと語った。
日本の風景がこれ程ふんだんに出てくる映画は珍しい。これ迄の膨大な仕事の中でも本作のタイトルバックのシーンが一番!と答える川又さんは、「風紋がどうしてもうまく出ず苦労した。技術面では高感度フィルムがない時代だったのでディテールが巧く出せなかったのが残念だ」と話した。
ところで、本作の背景には当時人々に忌避されたハンセン病への無知からくる偏見と畏怖がある。父と子の哀しい道行き…幼いながらにまざまざと見せつけられた厳しい現実と宿命。作中の刑事たちの瞼を潤ませた和賀英良の過去は、野村正昭さんがいうようにアナログの迫力によるリアリティーと言っても過言ではないだろう。
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