ベストセラーとなった「負け犬の遠吠え」(酒井順子著・講談社刊)の影響か、女性たちの間では最近「負け犬」という言葉を使用する傾向が多いようだ。そもそも男性間では、「勝ち組・負け組」が人生を判断する言葉のようだが、何故、女性は「犬」なのだろうか? そんな疑問も含めて女性の価値観をめぐる書物や映画は、やはり興味津々だ。そう考えたのは、「監名会」(年4回)の上映作品「或る女」(1954年)を観たからだ。有島武郎の小説の映画化、製作・配給は大映。2月19日、京橋のフィルムセンターは、当日のゲストが、本作で美術を担当された木村威夫氏だけに満席。やはり、日本映画美術界の重鎮への関心の高さは並々ならぬものがあった。
京マチ子演じる早月葉子は、自立した女を目指し、当時の女性としては型破りな奔放な生き方をしながら、その実男性に依存しすぎ,自尊心の高さが災いして遂に精神のバランスを欠き、苦しみながら死んでいく気の毒な女だ。1954年に公開された本作は、「興行成績としては芳しくなかったが、都会では新しいタイプの女性像を描いたとして、温かく迎えられた」という。
「映画は<見世物>という概念が強かったので、当時としてこのような文芸作品を撮るのは冒険だった。物語の舞台が、明治から大正への移行期で古いものにハイカラなものがブレンドした時代だったので役者の髪型や身につけるものなどにそれが現れるように意識した。
事件らしきものはほとんど起こらない会話劇、普通2時間以上会話劇で見せるのは困難だが、それを考えるとよく出来ていると思う。今から50年ほど前の作品。その当時は1ヶ月で撮るのがフツーだったがハリきって作ったので2ヶ月かかった」と木村さんは懐かしそうに語った。
今年87歳になる木村さんは夥しい数の作品を手がけ、現在も第一線で活躍する。そんな木村さんが36歳の時に関わった本作は、毎日映画コンクール美術賞を受賞。映画美術はアートになり得ることを証明した記念すべき作品だ。
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