30年代を舞台とした小説や映画が多いのは、物質至上主義に生きる現代の私たちの郷愁だろうか。あの時代を知らない人たちが主たる映画観客層となっている現在、若い世代の人たちは昭和30年代をどんな思いで見ているのだろうか?
8月26日、京橋のフィルムセンターで開催された映文振センター主催の第90回「監名会」(年4回)上映作品は、故今井正監督作品「米」(昭和32年)。製作は東映。霞ヶ浦の湖畔で半農半漁で生計をたてる母と娘を中心に、農家の次男三男の逞しい生き様を描いた作品だ。上映後、本作品で録音監督をつとめた岩田廣一さんに、編集者でビデオカメラマンの円尾敏郎さんが話を聞いた。司会進行は俳優の櫻井直美さん。
“Sound is 50 percent of the motion picture experience” George
Lucas
−映像における「音/サウンド」づくりは、その作品の半分に値する− ジョージ・ルーカス
言うまでもなく映画は映像と音で成り立っている。それほど音処理も大事である。
「映像に対する『音/サウンド』には二つある。一つはフレーム内の音、セリフなどその場面で音源の見える音、二つ目はフレーム外の音(オフの音)、音は聞こえるがその音源が場面に見えない音で、映像に付けられた音楽・ナレーション・効果音がそれである。その二つ目を考えてデザインするのが録音技師の仕事である。ただ音を録音するだけでは録音技師とは言えない。最近は、映画をテレビで放送したりDVDで売ったりしているが、映画用にミックスされた音は小さな家庭用スピーカーで聞いても劇場のように迫力が出ない。レンジと言って音の強弱の幅が家庭用のスピーカーでは取れない。ボリュームを抑えて出すので小さな音は聞こえなくなる。映画はやはり劇場で、しかも真ん中で見て頂きたい。」
今から50年近く前の自分の仕事を確認するため岩田さんは上映中、場所を変えて鑑賞し、そう語られた。
当時の平均撮影日数が40日程だったのに、本作は6ヵ月以上を費やした大作だ。社会派監督として有名な今井監督の意気込み、監督が撮った東映東京作品の全てに関わった若干28歳だった岩田さんの録音技師としてのこだわり、気概といったものが感じられる。
「最近、ハリウッド映画も日本映画もワイヤレスマイクを役者につけさせて演技させているので、音の距離感が希薄になっている。又、ハリウッド映画に関しては音楽の垂れ流し状態だ。その魅力はどこにあるのか疑問だ」と円尾さんは語気を荒げて語る。
録音技師が意図した音のデザインを正しく理解するためには、劇場用に製作された作品は、やはり、劇場の真ん中で見たいものだ。
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