1962年より幾度も映画、テレビ、舞台で製作され、故・勝新太郎の代表作として知られる「座頭市」シリーズ。2003年に北野武が現代的にリメイクし監督・主演し話題をよんだため、「座頭市」と聞くと、「北野武」と答える若い人たちが案外多いかもしれない。
日本映画の検証と継承を標榜する映文振センター主宰の第93回「監名会」(年4回)が、6月2日、京橋のフィルムセンターで開催された。上映作品は、座頭市シリーズ8作目の「座頭市血笑旅」(1964年)。監督は三隅研次、配給は大映。何人もの監督に演出されたほどの人気シリーズ、一作目を手がけた三隅監督も本作を含めて数本撮っている。上映会の後、本作に出演した女優の高千穂ひづるさんに、編集者でビデオカメラマンの円尾敏郎さんがお話を聞いた。司会進行は俳優の高木靖浩さん。
高千穂さんは宝塚に入り16歳で初舞台をふむ。19歳で映画に初出演して以来数々の映画に出演、〈東映城のお姫さま〉と呼ばれ有名な映画娯楽雑誌の「平凡」や「明星」などの表紙を飾った。
お姫様役ばかりではなく生の人間の役を演じたいと、東映退社を決意したが五社協定にふれて半年ほど映画に出られないことに。その間、独立プロの「女だけの街」他に出演してお姫様女優を脱皮、五社協定がとけた後は松竹に復帰した。
当日の上映作品である「座頭市血笑旅」について、親子の〈情愛〉が欠如し悲惨な事件が相次いでいる現在の日本において、手本にしたい内容だ。
盲目のやくざ・市は自分の身代わりに殺された若い母親の赤ん坊を抱え子守り旅を続ける。途中、田舎侍に追われる女スリ師お香(高千穂さん)を助け、子守り代わりに雇い、旅を続ける。お香の中にいつしか赤ん坊への情愛が芽生え・・・。出演した感想として高千穂さんは「この作品は当時劇場で見て以来今日が初めてで、楽しく素晴らしい作品でした。子どもを抱いた経験が無い時だったので勝さんから子どもを受け取るのが怖くて気をつかいました」。
三隅監督とはこの一本だけでしたが、待ち時間でのやりとりを映画の中に取り入れて下さる、自然体を求める監督でした、とも。
監督・三隅研次、脚本・星川清司 他、撮影・牧浦地志、美術・内藤昭、音楽・伊福部昭という贅沢なスタッフ、そして主演の勝新太郎・・・。この頃にこんなにもすごい人たちとの映画づくりに参加できた高千穂ひづるさんは幸せ者だと、映画を見てつくづく思いました。
高千穂さんは10年間ほど実業家として活躍、長らく女優業を休業していたが、この度女優復帰を決心したという。きっかけについて、「女優業を途中下車しましたが、心も身体も元気でいられるにはどうしたらいいか模索していたら、一生やれる女優の仕事を再び考えるようになりました」と溌剌とした声で語られた。
自分にしかできない役を求めて苦悩した日々があったからこそ、今度は年齢相応の役を素直に演じることができるのではないでしょうか。 |