映文振センターの「監名会」はこの11月、27年目に入った。その間、ゲストとしておいでいただいた監督や俳優さんの何人かは惜しくも亡くなられている。今回、第95回監名会は、当時あまりにも有名な五社協定の壁に阻まれた、山本富士子さんをゲストに迎え、11月24日、京橋のフィルムセンターで開催された。上映作品は、「夜の河」(1956年)。監督は吉村公三郎(監名会第3回「偽れる盛装」・第30回「暖流」においでいただきました)、製作・配給は大映。京都を舞台に、京染の世界にいきるヒロインが、妻子ある大学教授との恋におち、彼が病妻の死後の結婚をほのめかすと女の自尊心のために別れていく、人生の真実を求めて自立する女の姿を描いた作品。主役を演じた山本さんはこの作品で映画開眼し、NHK最優秀主演女優賞を受賞した。上映会の後山本富士子さんに、評論家の川本三郎さんがお話を聞いた。司会進行は俳優の南原健朗さん。
「25歳の時に強い自我を持つ30歳をすぎた京女の役を演じることになり“セリフでも、言葉とお腹の中は違う”という京女のニュアンスをだす苦労がありました。でも、監督が京都人の性質や風習に詳しく、色々教えていただき、とても助かりました」。
1950年、18歳で読売新聞社主催「第1回ミス日本」に選ばれた山本さんは変わらぬ美貌、凛とした声で滑らかに語られた。自らデザインし京都の染め物屋に注文したという艶やかな着物をたおやかに着て。その上、思い出深い本作の台本を持ってきて見せてくださった。
「沢野久雄の原作を田中澄江さんが膨らませて脚本を書いた本作は、特にセリフの妙が光る。ヒロインは新しいタイプの自立した女性像として描かれていて、現在みても少しも違和感がない」と川本さんは語る。
「夜の河」はテレビや舞台でも山本さんが演じてきた。その舞台版のセリフも気に入っているという山本さんは、その場で朗読してくださった。
映画出演の話は幾度かあったというが、いまだに実現していない。人気絶頂期に突如、巨大な組織の壁に遭遇し映画に出られなくなった当時の心境を、山本さんは冷静に話される。しかし映画界の失態は、本作をみれば明らかだ。舞台を中心に現役を張るすばらしい「女優」であり続けている山本さんは、見事という他ない。 |