企業や官公庁の不祥事が続き倫理観が問われている。問題は、その後の責任者の誠意ある対応や処理にあることは言うまでもない。
映文振センター主宰の第96回「監名会」(年4回)が、2月9日、京橋のフィルムセンターで開催された。上映作品は、50年代、60年代東宝の興行的支柱だった「社長」「駅前」「若大将」などのシリーズの中から「社長道中記」(1961年)。監督はこの社長シリーズを多く手がけた松林宗恵さん。配給は東宝。源氏鶏太の小説「随行さん」を元に笠原良三が脚本を書いたサラリーマン喜劇だ。
上映会の後、松林宗恵監督が撮影秘話などを話された。司会進行は俳優の板倉光隆さん。寒風吹きすさぶ中、会場に集まった人々の多くは年配者。男女比は半々。高度経済成長期の日本の愛すべき“社長さん”のドタバタ喜劇を観て、さほど遠い昔ではないのに古い時代のような感慨を覚えたのではないだろうか? 松林監督はこの監名会に過去3回ゲストで来られている。その時の上映作品は「太平洋の嵐」と「人間魚雷回天」。
「新東宝で骨太作品『人間魚雷回天』のような映画を撮った後、東宝に復帰し“社長モノ”のような喜劇をとることに偏見をもたれ、もうこれ以上撮れないと思い一時シリーズを撮ることを辞した。その後、仕事がこない日々を送ったこともある」87歳という年齢を感じさせない若々しい通る声で松林監督は話された。
結局、松林監督はシリーズ全37本中23本を撮り、ドル箱作品を世に送り続けた。本作は、当時、黒澤明監督の「用心棒」と同時に封切りされ、興行的にも大成功を収めた。
社長を演じた森繁久彌さんについては「大人の喜劇を演じられる色気のある奇特な俳優だ。森繁さんに絡むと、他の役者たちは自分の持ち味を100%発揮でき絶妙になる」と賛辞を惜しまない。
コチコチの融通の利かない、だがやる気満々、会社の為なら我が身をも犠牲にして仕える社員を演じた小林桂樹さんの純朴さが実に爽やかだ。かつてこのような企業戦士たちが自身が属する組織のために心血を注いできた。そして敗戦から立ち上がり世界の大国になった。人と人との信頼と絆、すばらしい関係性、その上で成立するてんやわんやの上質な喜劇。存分に楽しめた! |