映文振センター主催の「第99回監名会」が、12月6日、京橋のフィルムセンターで開催された。上映作品は、いつも日本映画の名作ばかりだが、今回は戦前の作品で、断片しか残っていなかったが現在から17年前、広島の収集家の蔵の中から見つかった“幻の名作”「忠次旅日記」(1927年)。原作、脚色、監督は伊藤大輔。配給は日活大将軍。言うまでもなく講談や浪曲の人気キャラクター・国定忠次の物語で、大正時代には映画化もされている。幸運にも残っていた、だが欠落部分が多々ある無声映画の名作を講談師の宝井琴調さんが活弁。これまで幾人かの弁士たちが持ち味をいかした口演を披露してきた中、味わい深い「宝井版 忠次旅日記」を披露した。
上映会の後、宝井さんと映画史家の佐伯知紀さんのお話があった。司会進行は俳優の平辻朔耶さん。
81年前に製作されたフィルムの状態は確かに悪い。だが、音の洪水のような映画が多い今、音楽もなく弁士の声のみで観る静かな映画は、深い味わいがある。偶然にも発見された本作、「発見当時、残っていた驚きは大きかったが素材の悪さは深刻で、嬉しさと同時にちゃんと復元できるか心配で複雑な心境だった」と、当時フィルムセンターで修復を担当した佐伯さん。
声をつけた宝井さんは「語尾をかえたり工夫しながら一字一句間違えないように台本を作った。ちょっとでも間があくと気になり、結果喋り続ける台本になってしまった」と語られた。
時代がサイレントからトーキーへと移り変わり、多くの作品が劣化のため処分された中、声をつけていた弁士たちが仕事柄、フィルムを保存していたというケースが多い。又、時代の変遷で仕事を失った弁士たちは、活躍の場を求めて講談の世界へと入っていくケースも多かったという。
大変価値のある映画だということに単純に驚き、さらに本作で伊藤監督と主演の大河内伝次郎はコンビとして名声を得たが、当時2人ともまだ29歳という若さだ。人生80年の現在、なんという風格と成熟を感じさせることか。色々な意味で考えさせられる作品だった。 |