第103回「監名会」(映文振センター主催)が2月13日、京橋のフィルムセンターで開催され、底冷えのする日だったが、満席に近い状態となった。上映作品は故・溝口健二監督の「近松物語」。1954年度作品、製作・配給は大映。
近松門左衛門の原作「大経師昔暦」を川口松太郎が「おさん茂兵衛」として劇化、溝口監督が映画化したもの。溝口監督は’52年に「西鶴一代女」、’53年に「雨月物語」、’54年に「山椒太夫」で三年連続ヴェネチア映画祭で名誉ある賞を授賞するという快挙を成し遂げた。
上映会の後、本作で長谷川一夫さんと共に主演を演じたおさん役の女優・香川京子さんがゲスト出演されトークショーが行われた。インタビュアーは「バラエティジャパン」編集長の関口裕子さん。司会進行は俳優の苫野美生さん。
思わぬ偶然が重なり、愛を確認しあった男女が不義密通の罪で捕まるまでの物語。大スター・長谷川一夫さんは当時40代、香川さんはまだ22歳だった。
「溝口監督は一切演技指導をされない方だったので全て自分で考えて演じなければなりませんでした。初めての人妻役で、京言葉や衣装など最初から最後まで苦労しましたが、忘れられない作品です。監督は幾度も『役に反射していますか?』と繰り返され、共演する役者の言葉や動きに反応するという芝居の基本を学ぶことができました」。
最初は主役ではなかったのに、いつしか主役になっていたという香川さんは、当時を振り返ってそう語られた。
関口さんは、「一から十まですごい作品。特にセットが立派」と美術監督の水谷浩さんの偉業を褒め称える。ちなみに、撮影監督はコンビでヴェネチアでの授賞となった宮川一夫さん。照明は岡本健一さん、脚本は「忠臣蔵」の依田義賢さん等、超一流のスタッフが勢ぞろい。撮影所システムの中、何から何迄、塵一つに至るまで一流の証のようだ。
長谷川一夫さんについては「何本も共演しているので気心が知れ、親切に女性の仕草や色気の出し方を教えて下さいました」と香川さん。
晒し者にされても毅然とした姿で刑場へ向かうおさんの、愛を貫いた満ちたりた表情が印象に残る。
この作品の2年後、溝口監督は急逝し58年の人生を終えた。だが、没後50年以上を経た現在もその名は、残した数々の名作と共に燦然と輝き語り継がれている。「監名会」のようなイベントを通して。 |