文学、映画、芝居、TVドラマ、アニメなど様々なアプローチで描かれ続けている名作というものがある。ノーベル文学賞受賞作家・川端康成の名作「伊豆の踊子」もその一つだ。第104回「監名会」(映文振センター主催)が5月18日、京橋のフィルムセンターで開催された。この日は珍しく平日の開催となったが、名作の上映とあって多くの人達が集まった。
これまで6度映画化され、田中絹代から山口百恵まで当時の人気女優が踊子役を演じてきた「伊豆の踊子」。今回は、戦後第一作の1954年版が上映された。監督は、黒澤明監督に「日本一の助監督」と言われた野村芳太郎。製作は松竹。主役の2人は、石濱朗と美空ひばり。上映会の後、主役を演じた俳優の石濱朗さんのトークショーがあった。司会進行は俳優の石浜美希さん。
現在から56年前の作品で、「改めて見ると気がつかなかった発見が沢山あります。当時、東宝でも同じ企画があがっていたが、私とひばりさん共演で松竹でやる事に決定しました。撮影当時はまだ学生で、ひばりさんは16歳だったと思いますが、年齢や雰囲気など原作に近かったと思います」。「朗読の会」を開いている石濱さんは、原作の印象的な箇所を時折引き合いにだしながら、本作や他の映画化作品と比較して述べられた。
“一高生と旅芸人一座の踊子との淡い恋物語”と簡単に語られる事も多いが、世間から蔑視される踊子とエリート学生には身分の差があり、当時の階級社会の現実が描かれている。
野村監督は、わざとNGを出して美空ひばりさんに好演させていたそうだ。その監督もひばりさんも今はもういない。本作が上映された1954年、石濱さんは、「風立ちぬ」「君に誓いし」「若き日は悲し」「この広い空のどこかに」「兄さんの愛情」と6作品に出演している。19歳の時だ。現在は社団法人日本映画俳優協会の理事長も務めている。
声をあげる事もなく、追いかけもせず、さよならを受け入れ静かに涙を流す2人の姿が、すごく大人びて見えたのは私だけだろうか? |