日本映画の名作を、その映画に関わった映画人を招いて、検証し継承していく活動を続けている映文振センターの事業の一つ「監名会」。30年目に入った第106回の上映作品は、2008年松竹配給の最近作「母べえ」が選ばれた。山田洋次監督作品。
今年最後の第106回「監名会」が、11月27日、今回は(フィルムセンターではなく)株式会社IMAGICAの協力で同社東京映像センター第一試写室で開催された。上映作品は新しいものだが、日本映画界のベテランで国民的女優として絶大な人気を誇る吉永小百合さんが出演した作品で、且つゲスト参加されるとあって、ほぼ全ての会員が出席した。戦時中のある家族の姿を感動的に描いた132分の長編上映後、吉永さんと共に原作者で元黒澤組プロダクションマネージャーの野上照代さんが撮影秘話を話された。進行は俳優の苫野美生さん。
本作は、野上さんが読売ヒューマンドキュメンタリーに応募した自伝的作品でTVドラマ化が前提となっていたが、諸事情で実現されずにいたものを、20数年の歳月を経て山田監督の手で映画化される事になった。「男はつらいよ」(74年)以来、36年ぶりに吉永さんと山田監督がコラボレーションするに至ったものだ。撮影にあたっては、昭和15年という不穏な時代感を出すために野上さんが描いたイラストや写真が、演じるのに大変役だったという。
野上さんは83歳にして矍鑠とされ、吉永さんは15歳で撮影所に入り、ずっと映画にこだわり主役を張っている。撮影所時代を知るお二人だけに日本映画の今後に不安と希望をお持ちだ。野上さんは、「映画界の状況は変わるもの。河の流れと同じで逆流はしない。でも、フィルム時代のこころが出ればいい」と語られた。
「かつてのように地方ロケに行った時などに、皆で集まって食事をしたり交流する機会がなくなったのは残念です。又、軽く性能の良い機材が導入され、便利さと引きかえに監督と向き合って映画を作るというスタンスがなくなりつつあるのは寂しい、皆で映画を作る昔の撮影所のような場所があるといい」と吉永さん。
いい映画はいつまでも心に残り、百年先まで残るもの。ベテラン映画人のこころに染みる言葉が印象的だった。 |