日本映画の名作を、各々の映画にかかわった映画人をゲストに迎え、検証・継承していく活動を続けている映文振センターの事業の一つ「監名会」。第109回は8月27日(土)、東京電力の節電に伴う開催時間変更のために、午前11時からの上映となった。
「雨あがる」は、監名会としては近作(2000年制作)。本作は黒澤明監督が生前、山本周五郎の短編を基に脚本の大半を仕上げていた。「黒澤明監督の覚え書き」の中にこの作品についての思い入れが詳しく記されている。少し長いが引用をしておく。
『これは、主人公とその妻のドラマである。まず、その二人の関係をじっくりと描かねばならない。夫の愛に生きている妻は、そのままの生活で満足している。しかし夫は、貧しい生活が妻を不幸にしていると思っている。もっと出世してもっと楽な生活を送らせようと齷齪〈あくせく〉している。妻は、そんな夫を見ているのがつらくて、悲しいのに、夫には妻の心がわからない。
時...享保、戦国時代が終わり、次にその反動として奢侈逸楽〈しゃしいつらく〉を追う元禄時代になる。そして、それに飽きそれを遠ざけて、質実尚武〈しつじつしょうぶ〉を尊ぶ享保時代が来る。これは、その時代の話である。見終って、晴々とした気持ちになる様な作品にすること。』
上映後本作の監督、小泉堯史さんと黒澤監督のスクリプターを務め、「雨あがる」では監督補佐だった野上照代さんにお話を伺った。司会進行は俳優の苫野美生さん。
野上:1998年9月6日黒澤監督が亡くなられて通夜の時に黒澤久雄さんがスタッフたちに「『雨あがる』を小泉さんで作ろう」と言って回っていた。(小泉監督に)初めての監督で緊張しなかった?
小泉:とにかく野上さんをはじめ黒澤さんのスタッフが全部付いてくれていたので助監督のつもりでやりました。むしろ楽しかったです。
黒澤さんがこの作品を撮られたらどうなったのかな、自分は助監督として付いてみたかった。
黒澤明という偉大な映画監督と同じ時を過ごせたという幸せを、つくづく感じています。皆も同じだと思う。
野上:『赤ひげ』以来黒澤監督と疎遠だった音楽の佐藤勝さんも、病身を押してスタッフに加わった。今回は是非とお願いをしたら、電話口で泣いて喜ばれた。
佐藤さんは作品が終わってその後、成城の中華料理店でのお祝いの席で倒れ帰らぬ人となりました。
出演していた三船史郎さんと吉岡秀隆さんも客席に来られていて、壇上に上がって当時の思い出を―三船さんは、映画出演が28年ぶり、難しいセリフを覚えるのに苦労したこと。吉岡さんは初めての時代劇、初めての乗馬に緊張したことなどを話されました。
主役の寺尾聰・宮崎美子のお二人が黒澤監督の覚え書き通り演じていて、そして小泉監督の人柄がにじみ出たような『雨あがる』であった。 |