映文振センター主催の「第110回監名会」が、11月12日、京橋のフィルムセンターで開催された。上映作品は、戦前の作品で "幻の名作"とされる「忠次旅日記」(1927年)。原作、脚色、監督は伊藤大輔。本作によって伊藤監督と主演の大河内傳次郎コンビの名声を不動にしたといわれている。配給は日活大将軍。
奇跡的にフィルムが見つかりフィルムセンターで復元されたものを見て講釈師の宝井琴調さんが台本を作り、第99回監名会で上映。琴調さんが弁士として独自の「宝井版 忠次旅日記」を披露した。フィルムの状態は決して良くなかったが高評を得た。3年を経て、会員の要望に応えてフィルムでの「宝井版 忠次旅日記」再上映となった。
ちなみに、「忠次旅日記」はデジタル化され、先日CS衛星劇場で綺麗な映像として蘇った。故に、フィルムの「忠次旅日記」を琴調さんの名調子で鑑賞する機会は希少価値があると言っても過言ではないだろう。
上映会の後、琴調さんが講釈秘話を話された。司会進行は俳優の苫野美生さん。
映画や舞台を鑑賞した事はなくても「国定忠次」の名前ぐらいはほとんどの人が知っている。そもそも忠次は講釈師によって世に出たキャラクターである。かつて三代目神田伯山が「清水次郎長伝」で絶大な人気を誇っていた頃、それに対抗すべく四代目宝井馬琴(琴調さんは五代目に入門)が上州を廻っていた時、侠客国定忠次の噂を耳にし講談に取り入れた。これを機に忠次は長く日本人に愛される人気キャラとなったのである。
「とにかく台本作りが大変だった。特に乱闘シーンが非常に苦労した。それなのに、本作で弁士を務めるのはこれが二度目。忠次と宝井一門は実に縁が深い関係なので是非もっと『宝井版 忠次旅日記』を上映したいと思っている」と琴調さんは語られた。
この日は、震災や戦火を逃れ生き残った貴重なフィルムを観るために観客が多く集まった。会場からは「音楽がなくても弁士だけでこんなに面白い作品になる事に驚きを覚えた」という声がでた。また、「劇団新国劇の流れをくむ劇団若獅子の十八番は、『国定忠次』だが、『宝井琴調版忠次旅日記』をみるとさぞ"キンチョー"するだろう」という嬉しい意見もでた。
きちんと残っていたという幸運に喜び、名作を上映できる場所(機会)があるという事に感謝したい。 |