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2014年2月14日
第119回 「阿弥陀堂だより」
おはなし:映画監督 小泉 堯史  さん   インタビュアー:キネマ旬報社出版編集部 前野 裕一  さん

 今年初めての開催となる「監名会第119回」が2月14日(金)に五反田のイマジカ東京映像センターにて行われた。折しも関東では記録的な大雪となった当日にも関わらず、会場に集まった会員の皆さんの熱気を感じる上映会となった。上映作品は『阿弥陀堂だより』(2002年)。黒澤明監督の元で長年助監督を勤めた小泉監督が、その遺志を継いで初めてメガホンを取った『雨あがる』(2000年)に次ぐ二作目の監督作品。四季折々の彩りが美しい信州の山村、長野県飯山市を舞台に、都会から移り住んできた心の病を抱える有能な女医と彼女を優しく見守る夫の熟年夫婦が、自然と共に過ごす時間の中で、阿弥陀堂という村の死者を祀るお堂に暮らす「おうめ」婆さんをはじめ村の人々との交流を通し、次第に生きる喜びを取り戻して行く様子を描く。
 上映後のゲストには2011年度の監名会第109回『雨上がる』の上映会でもお越し頂いた小泉堯史監督。インタビュアーはキネマ旬報社出版編集部の前野裕一さん。司会進行は俳優のにしいひろみさん。

 原作(医師で小説家の南木佳士氏の同名小説)が好きだったと話す小泉監督は、禅の文化を海外に広めた鈴木大拙に惹かれていたことを明かし、大拙氏が「禅の高僧にも匹敵する信心を持つ」と驚嘆した、知識人ではなく民衆の一人として生きる「妙好人」と、自分の心の中に『仏』を持つ「おうめ」は相通じる人物だと話された。その「おうめ」の役は、小泉監督が強く出演を望んだ北林谷栄さんが演じられた。91歳という年齢で撮影に臨まれた北林さんには、かつて劇団民藝で同士だった宇野重吉氏の子息である寺尾聰さんとの共演は特別な思い入れがあり、撮影の終了時には寺尾さんとの現場が終わる寂しさから泣いてしまった、という思い出話を小泉監督がしてくださった。また、北林さんの即興の演技や衣装さえ自前で準備する気迫にスタッフも押されて小道具の湯のみ茶碗一つにも手を抜かなかったことや、劇中に「おうめ」さん予備軍のような、村のお婆さん達が日々の暮らしを語るドキュメンタリー風なシーンは台本はなく全て出演された方々の自然な語りだったこと、一年を通し山村の四季の風景に人物を溶け込ませて撮影することにこだわったことなど、魅力的なお話は尽きない。終盤、小泉監督が「今回の監名会は、この作品でいいのかなと思った」と謙遜なさったのに対し、本作を是非にと押した竹下さん(監名会主宰)はこの作品は『静謐』そのものと感想を述べ、前野さんも観た人々の心に確実に響く作品で平日でも客足が良く、上映した映画館では公開終了決定がなかなか難しかったという話をされた。
黒澤組のスタッフの確かな撮影の伝統を引き継ぎながらも、ご自身ならではの心温まる作品を作り続ける小泉監督の次回作は、今年の秋に公開予定の『蜩ノ記(ひぐらしのき)』。小泉監督によると、主人公が『阿弥陀堂だより』の田村高廣さん演じる幸田先生にどこか近いという。幸田先生は『阿弥陀堂だより』では原作にはない映画オリジナルの登場人物。小説家の幸田露伴とハルピン帰りのロシア文学者、内村剛介の二人を融合したような人物であることにも話が及んだ。
本作のもつ温もりや監督のお人柄が醸し出す、心地よい暖かさに包まれた雪の中の監名会だった。


(文 菅原英理子  写真 島崎博)





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