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2015年5月2日

第124回 「ジャコ萬と鉄」
おはなし:俳 優  高千穂ひづる  さん  
インタビュアー:映画評論家  寺脇研  さん

 本年度二回めの開催となる「監名会第124回」が5月2日(土)に京橋のフィルムセンター小ホールで開催された。上映作品は深作欣二監督(監名会第74回のゲストとしてご参加)の『ジャコ萬と鉄』 (1964年)。原作は梶野悳三の小説『鰊漁場』。黒澤明と谷口千吉の両氏が脚色し、1949年に映画化した作品のリメイク版となる。
時は終戦後まもなくの昭和21年。北海道カムイ岬でニシン漁を営む九兵衛一家は、前科者が多い出稼ぎの漁夫たちを、安い賃金で雇い入れて荒稼ぎをしていた。そこへ、かつて九兵衛に船を盗まれ樺太に置き去りにされた恨みを持つ男、ジャコ萬が現われる。久兵衛の血の涙をみることが望みというジャコ萬の嫌がらせに一家が困り果てている折、嵐の海で行方不明になっていた九兵衛の息子の鉄が舞い戻り、ジャコ萬を追いかけてきた女ユキも絡んで、折々に互いの激しい感情をぶつけ合いながら、それぞれの心情が変化していく様子を描く。
上映後は、ジャコ萬を追い続ける女ユキを演じた高千穂ひづるさんをお招きしてお話を伺った。インタビュアーは映画評論家の寺脇研さん。司会進行は俳優の益田悠佳さん。高千穂さんは黒地に深紅の花柄のパンツスーツという上品な出で立ちで颯爽と登壇され、当時と変わらぬ微笑みでさまざまな思い出を語ってくださった。
 この上映会で、数十年ぶりに本作をご覧になったという高千穂さんは、画面から溢れ出る撮影に関わった人々の熱い思いに触発され、いろいろな記憶が蘇ったという。現場では、雪の中にぽつんとある旅館に俳優もスタッフも一緒に寝泊まりをし、毎朝、厚着をしては、つららの下がるトンネルを抜け、海辺にある極寒の撮影現場に向ったという思い出を語られた。寺脇さんも、漁夫達が「合宿」する物語を撮影隊が「合宿」して撮ったという構図に感心されつつ、鉄役の高倉健さんが厳冬の海に裸で入り身体をならして本番に臨んだという、まさに「命がけ」の演技と相通じる情熱がこの映画の全編から伝わってくると感嘆された。
 また、当時、高千穂さんは役柄のユキがアイヌの血を引く女という設定だったため、演技以前にアイヌの雰囲気を出そうと心を砕かれたお話を披露される一方で、ジャコ萬に追い返されたユキが、疾走する馬ソリに縛り付けられるハードなシーンを振り返った際、高千穂さんは馬ソリに縛られた記憶は余り残ってないと微笑まれ、演じる方より撮影隊の方がたいへんだったのではと、当時のスタッフたちを労われた。
その他にも、高倉健さんが東映のニューフェースとして入社し、琵琶湖の撮影現場に挨拶に現れた際に、すでに大スターとしての風格を漂わせていたエピソードをご紹介いただいたり、高千穂さんが役者としての大切な役作りのためには、例えスタッフを待たせても妥協しない姿勢を貫いてきたことなど、寺脇さんも会場一同も、高千穂さんの貴重なお話に引き込まれ、時間が経つのも忘れてしまう一時であった。
こうした尽きないお話を伺い、日本映画の黄金時代の流れを汲んで精魂込めて造られた映画の熱い思いが、時を経て今日の会場にも届いている感動を共有しながら、今回の上映会は閉幕となった。

(文:菅原英理子 写真:岡村武則)





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