東京都心では40年ぶりの記録的な長雨が明けた8月26日(土)、「監名会 第133回」が開催された。会場はフィルムセンター(京橋)小ホール。上映作品は国民的人気シリーズ『釣りバカ日誌』の第1作(1988年)。原作は1979年から現在まで小学館『ビッグコミックオリジナル』に連載され続けている同名の漫画(作・やまさき十三、画・北見けんいち)。釣りキチのサラリーマンと初老の社長とのふれあいが描かれる。平社員の浜崎は、高松から東京に転勤しても釣り中心の生活は変わらない。昼休みに会社の近所の食堂で社長の鈴木と知り合い、互いの素性を知らないまま釣りに行く約束をして交流を深めるが、互いの正体をって関係に変化が生じて行く。
上映後は、ゲストに初期作11話(1〜10及び外伝作1作)を手掛けた栗山富夫監督、インタビュアーに読売新聞の福永聖二さんをお迎えしてお話を伺った。栗山監督から「僕よりも詳しい」と評される福永さんは、現地取材で栗山監督とも交流。旧知の仲のお二人の和やかなおしゃべりに会場は引き込まれた。司会進行は俳優の竹内千笑さん。
栗山監督によると、大手映画会社5社による駆け引きの末に、松竹が原作権を取得。原作者二人が栗山監督の『祝辞』(1985年)を気に入ったことが縁で、本作の監督に就任したという。 当初は釣りキチ「ハマちゃん」役の西田敏行さんのキャスティングだけ確定し、小学館の社長をモデルにした「スーさん」役は難航。コミカルな役所が珍しかったため白羽の矢を立てた三國連太郎さんも「漫画はやったことがない」と難色を示し、原作を読んで貰った後に「やりようによっては面白い」と承諾。過去に唯一軽妙な役を演じた『泥棒物語』の路線でいくことで合意した。「ハマちゃん」の妻•ヒロインの「みち子」は、原作者側の想定は薬師丸ひろ子さんだった。製作側がもっと「パワーのある姉ちゃん」でないと老獪な相手役に飲まれてしまうと危惧し、石田えりさんに決定したという経緯が紹介された。
第1作から第6作(及びスペシャル)まで「みち子」を演じた石田えりさんについて「ああ見えて、芸術志向」と栗山監督。歴代ボーイフレンドたちの「どうして下らない娯楽映画に出ているんだ」という忠告や、西田さんと三國さんのアドリブによって彼女の台詞が次々と無くなってしまうことが引き金となって、自ら降板した。石田さんいわく「あの男どもが頭に浮かぶと、現場に足が向かない」。栗山監督も「あんなに台本が変わるのでは、石田さんが怒るのも無理は無い」と振り返った。
そんな西田さんと三國さんの定番のアドリブを、福永さんは「二人のやりとりの面白さが、22作という長期シリーズを支えた」と賞賛。栗山監督は「二人は、毎回、台本が気にいらなくて、勝手に変えちゃうんです」。脚本を担当した山田洋次さんは『男はつらいよ』シリーズの監督業で多忙を極め、『釣りバカ日誌』まで手が回らなかったという。弟子に書かせて山田監督が監修した脚本は、西田さんと三國さんサイドから言わせれば「完成度が低い」ため、現場で台本に無い掛け合い芝居に変わることも多く、「揉め事の多い映画でした」としみじみと語る栗山監督。
海外でも高い人気を誇る本シリーズは、マサチューセッツ工科大学に招かれた際はハーバードの学生も交えて栗山監督が真夜中まで質問攻めにあったり、ウズベキスタンの映画祭に招聘された折のタシュケント芸術大学での上映は笑いの渦だった。「長く続けたことで、社会性や時代性が映し出されてますね」と福永さんが指摘すれば、地方PRにと各地から舞い込む誘致で数多のロケハンを行った栗山監督も「海辺の街には日本の美しい光景がある。でも、寂れたところも多く、『ふるさと創世』で原発があるところも多かった」と日本社会の一側面を語った。 最後に「主役の二人は撮影で懲りて、プライベートでは釣りは一切やらない」というエピソードが明かされ、日本の世情を映して来た長編シリーズを満喫した上映会は閉幕した。 |