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2018年3月10日

第135回 「戦争と青春」

おはなし:作家  早乙女 勝元  さん  
インタビュアー:映画監督  後藤 俊夫  さん

 春の訪れを感じる3月10日(土)、「監名会 第135回」が開催された。会場は恒例のフィルムセンター(京橋)小ホール。上映作品は今井正監督の『戦争と青春』(1991年)。東京下町を一夜にして焦土と化した東京大空襲を中心に、戦争に翻弄された若者達の運命を描いた反戦映画だ。今井監督は本作が遺作となった。市民プロデューサーシステムにより、一般から出資を募り制作されている。
 物語は、東京の下町に住む女子高生・ゆかり(工藤夕貴)が、身近な人の戦争体験をレポートにまとめるという課題を持ち返ったところから始まる。手始めに父に話を聞こうとするが拒否される。だが、父の姉でゆかりの伯母にあたる咲子が交通事故に合ったことを切っ掛けに、父と伯母の味わった悲しい戦争体験が明らかになっていく。
 今回のゲストは、本作で脚本を担当された原作者の早乙女勝元さん。進行役兼インタビュアーは、映画監督の後藤俊夫氏(第75回、第115回、第120回、第131回にゲストでご参加)。長い日本映画の歴史に関わられてきたお二人の語りは観客を唸らせる。客席には本作のベテランスタッフ陣も揃い、賑々しさに花を添えた。司会は俳優の竹内千笑さん。
 原作を読んだ今井監督の早乙女さんへの一言、「君がシナリオも書いたらどう?」がすべてのはじまりだという。大澤豊、橘祐典、吉田憲二の3監督も脚本執筆に携っており、何年もかけて最終稿を書き上げた早乙女さんの実感は「映画というのはたいへんなものだな」に尽きるそうだ。
 早乙女さんによれば、元となるエピソードは3つだという。1つは、「黒こげの電柱のモニュメント」。これは東京大空襲の被災者の宮田さんが碑文を添えて保存しているもので、台東区西辻町二丁目に現存する。2つめは、早乙女さんが講演で招かれて訪れた中学校(女子学院)で行われていたレポート制作。「身近な人の戦争体験をまとめるという課題に取り組む現代の女子高校生」というヒントをもらったそうだ。3つめは、早乙女さんご自身が幼少時に体験した戦時下での負け抜き相撲。負けたものが最後まで相撲をとりつづけなくてはならない相撲だ。早乙女さんは虚弱体質で軍人になって国のお役に立てそうもない子供だった。負け続ける早乙女さんの姿を見ていたある先生からの言葉「負けるが勝ちだよ。相撲に強くなくても、君も他の分野で何か出来ることあるだろう」。この台詞が早乙女さんの心に響き、主人公の伯母が若き日に教師と恋に落ちる切っ掛けとしてストーリーに組み込んだという。
 久々に鑑賞した本作についての感想を、後藤監督から求められた早乙女さんは、「全体として、淡白に奇麗に流れていると感じた。今思えば、重くなっても良いから、もう少しラブシーンなど、突っ込んで描いても良かったようにも思う」。一方の後藤監督は、戦争を知らない現代の人々にも「ストレートに伝わっているのではないか」と賛辞。
 続いて後藤監督のご指摘「東京大空襲で火の中を逃げるシーンでは、主人公の父と伯母が、伯母と恋人との間に生まれた赤子と逃げ惑いながらもはぐれてしまう様子が描かれるが、少年であった父が電信柱と壁をよじのぼって、赤子を高い場所に引き上げようとする描き方が、むしろ危険に見えるし、説得力に欠けるのではないか」。早乙女さんの補足は「確かにこの映画に欠点があるとすれば、そこではないかと思う。映画ではここがうまく描けていないように感じる」。原作にあった、電信柱の向こうの工場のような建物には一カ所だけ窓が開いていて、そこはまだ火の手が回っていない場所だったという描写が、忠実には表現しきれていなかったようだ。ただ、現場が激流のような火の海であったことは本作の画面に映し出されていた。敗戦後間もない日本に灯りを灯した人生記録雑誌『葦』。その書き手から著述業に入られた早乙女さん。戦後5年で朝鮮戦争が勃発し、東京大空襲で爆弾を落としたB29が、横田基地や入間基地から朝鮮半島へ向けて飛び立っていくの見詰めながら、自分にも何か出来ないかという思いで文章を書き始めたという。今日まで下町の作家、東京大空襲の語り部として活躍され、東京大空襲戦争記録センターの現役所長でもある。後藤監督とは現在もタッグを組まれることもあり、活動を通して後世に伝えて行くという。こうした細やかな伝承の尊さを感じながら、今回の上映会は閉幕した。

(文:菅原英理子 写真:岡村武則)





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