秋色の深まる11月5日(木)、国立映画アーカイブ(京橋)にて「監名会 第146回」が開催された。新型コロナウィルス感染症拡大予防のため、来場者には入館時の検温とマスク着用が恒例となった。
上映作品は『天下の快男児 万年太郎』(1960年)。「サラリーマン小説の第一人者」と呼ばれた源氏鶏太の小説『万年太郎』をもとに、喜劇を得意とした舟橋和郎が脚本化、『点と線』など巧みな演出で知られる小林恒夫が監督を務めた。高倉健と山東昭子のコンビによるサラリーマン「太郎シリーズ」のひとつ。
上映前にゲストとして、ヒロインを演じた山東昭子さんが登壇。人気女優から参議院議員へと華麗な転身を遂げた現役の参議院議長でもある。紅葉の季節らしいマロンカラーの装いの山東さんは「本作は私の映画女優時代の作品。撮影時の私は17歳でした。振り返ってみれば60年前でございます」。当時と変わらぬ笑顔に会場は華やぐ。「コロナ禍の時代、皆様方の生活は一変されたのではないでしょうか」と参加者を労いつつ、「多くの方々に出来るだけ人生を楽しく、長生きをしていただきたい」とこれからの活動への抱負を語られた。「相手役であり主役の高倉健さんは、任侠映画での活躍や朴訥とした佇まいという印象が強いと思いますが、今回はそれとまったく異なるコミカルなサラリーマンという役どころで、イメージとは違う味わいを出しています」と自ら見所を紹介。かつて映画を作られたこともあるという代議士の伊藤信太郎氏も客席から参加された。
時は昭和の高度経済成長期。ヴィナス化粧品本舗に勤める万年太郎(高倉健)が、九州支社から東京本社へ転勤して来たところから、物語は始まる。血気盛んで喧嘩早いと悪名高い太郎は、宣伝課長の村田勇吉(大村文武)に目をつけられる。村田が執心する社内一の美人の若子(山東昭子)を庇ったことで、村田一派と乱闘になってしまう。転勤初日からどん底の評判の太郎だが、若子だけは太郎の素朴な誠実さを見抜いていた。太郎と若子が惹かれ合って行く過程を軸に、サラリーマン生活の悲喜劇が描かれる。
高倉さんが演じた実直な人物像と、山東さんの演じた周囲に流されずに自身の感覚を信ずる女性の姿は、このコロナ禍において「自分に正直に生きること」の大切さを再認識させる。本作の爽快さは、今日の時代に漂う陰鬱な空気をも吹き飛ばす。未来への希望を抱かせてくれる上映会となった。 |