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第024回 「人間の条件」六部作 小林正樹
 真夏というのに劇場から出てきた私の心は凍てついていた。そして、まぶしすぎる陽光・・・ 高校二年の夏休み、塾の先生に連れられて観にいったオールナイト上映会での帰り道。作品は「人間の條件」六部作(小林正樹監督)。
 学校の授業や、テレビのドキュメンタリー、それに戦争帰りの祖父の話から自分なりに戦争に対する知識を幾分か持っていたはずだったが、この映画の内容は衝撃的であった。フィクションの世界であるはずなのに、事実を映し出した記録映像よりも、私の胸に迫ってきた。それは、歴史教科書に記された無機質な記述の行間に秘められた名もなき犠牲者たちの悲鳴というべきか。9時間以上に及ぶこの作品の中で、今でも忘れられない場面がある。若き田中邦衛演じる二等兵が、新兵いじめに苦しみ、深夜、便所で自殺を試みる場面。しかし、弾は不発。再び試みても不発。そうだ、生きるんだ! そう希望を持った瞬間、銃が暴発。田中のコミカルな役柄に観客が和んだ直後、場内に響く銃声。それは、どんな台詞よりも戦争の非人間性、残酷さを雄弁に物語っていた。また、物語の終盤、中村玉緒演じる可憐な少女の悲劇も忘れられない。戦争体験のない私にとって、本作は、まさに戦争の追体験となった作品であった。また、映画の持つ伝える力を、まざまざと実感させられた。 紆余曲折はあったけれど、映画興行の世界に入って来年で15年。現在、地元名古屋の映画興行会社で、出張上映会と、月に一度のオールナイト上映会の企画運営を担当している。
人々の心に残る作品の上映を目指しているが、なかなか現実は厳しいものである。しかし、いつの日か、「人間の條件」六部作の再映を実現してみたい。そう、今のこの世の中だからこそ。
[映画興行会社勤務・フリーライターとしては当会報の「館主さんをたずねて」を毎号担当]
(フリーライター 木村昌資)





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