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2001年02月10日
第069回 「幕末太陽傳」
録音技師:橋本文雄さん、映画評論家:上野昴志さん
上野:橋本さんは大映から1954年に再開日活に移られて、映画270本を越す現役の録音技師さんです。「幕末太陽傳」は川島雄三監督の代 表作です。川島雄三監督は松竹で24本、日活はこの作品が最後で東宝(東京映 画)、のちフリーで活躍、40代で早逝されました。橋本さんは川島雄三監督の日活 での作品6本を担当されました。「幕末太陽傳」、ひさしぶりに観ましたがセリフが多いですね。
橋本:30年ぶりに観て、テンポと歯切れのよさを感じました。
上野:玄関から廊下を話しながらはいっていく最初の場面、大変でしたでしょう。
橋本:当時の機械はミキサーがマイク2本だけ。川島監督はいじわるで、わざと我々を困らせました。欄間に5〜6本マイクを置き、助手に抜き差しさせました。今考えると嘘みたいに大変でした。監督はニヤニヤです。
上野:「付け馬かい」でいななきを入れましたね。
橋本:監督のいたずらですね。下駄、キ(拍子木)は最終ダビングでいれました。
上野:親子の鉢合せでもキが。
橋本:場面転換でキ。他の場面ではあとの音をずり上げ(早出し)ずり下げ(残す) ……録音の基本です。
上野:ジャズっぽい音も使いましたね。 [橋本]現代の品川ではジャズ。他は雅楽などの和楽を使いました。笛・お化けのドロ ドロ、道行きでは芝居風にヒュー、などわざとあざとく入れました。臆面もないやり かたを川島監督は喜んで乗ってくれました。川島さんは細かい点は指導しません。助監督の今平さん、浦山君がよく働きました。川島監督は小声で助監督になにかを言ってました。
上野:俳優の話しかたは、大声で早口……
橋本:江戸っ子弁でテンポよく、セリフの音質は、音をしめていますから硬いです。 強く響いて、怒鳴りあっているようでした。録音技師としては、意味ない音を入れたらそれは雑音にすぎません。効果音でも音楽 でも。むだなものは省くこと、大映京都時代から音は必要なものだけ を入れると学びました。
上野:本人(俳優の役)が感じなければ入れないのですか。
橋本:そうです。音を入れて孤独をあらわすこともあります。何もないから入れるの はだめです。
上野:ふっと音をカットするときがありますが……
橋本:「敦煌」で馬が何百頭も走り、地鳴りをカットして画面は走っている。音はなく ても音を感じます。 佐藤勝さんの音楽が響く、そのあとに地鳴りを入れていきます。これは映画だからできる 手法で、人の心が暗い中で集中して、小さい音でも聞こえるからです。音がないこと が逆に音を意識させます。
上野:ドルビーなど、最近の映画は音がありすぎますね。
橋本:そうです。ドルビー、デジタル、ステレオ……。音で脅す映画ならまだしも、 まともな映画ではうるさすぎます。冷静に演出家、サウンドデザイナーが対処すること です。音には足し算だけではなく、引き算も必要です。
上野:橋本さんの音の設計の源は何でしょうか。
橋本:昭和30年代、日活で年間7〜8本。数多くやっているうちに結果として判然 としました。実績を積めば、音を入れない理由がわかると思います。Simple is best です。ドキュメンタリーでもありのままとは違います。リアルとは客がリアルと 感じる音で、それは作るものです。
上野:撮影現場の音はそのまま使いますか。
橋本:同時録音していてもあとで効果アフレコで入れ直します。監督の意図をいかに 表すかです。現場の音は生きた音ですから、セリフだけでなくアクションノイズもと ります。ロケでは思いもしない音が入りますがそれもとっておきます。ファイナルダ ビングで使うこともあります。
上野:内から外、前から奥へ、馬が走ったりなどの音の遠近感は……。
橋本:ダビングで上・下や残響などで合成します。ロングの音はとる人、作る人の感性によって決まります。音は何でも聞くことが必要です。
上野:最後に橋本さんの最近作についてお 話し下さい。
橋本:篠原監督「木曜組曲」・女6人の物語です。4月中旬完成です。是非観て下さ い。

音に関してだけでなく、逸話の多い川島雄三監督の思い出がいっぱいのお話でした。 「川島クラブ」 というプリント作成・上映という川島雄三監督作品のみの会があります。 私も時々参加しております。川島雄三死して38年、名声はますます高くあります。
(小泉 澄)





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