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2017年6月3日

第132回 「ゼロの焦点」

おはなし:俳 優  上月左知子  さん  
インタビュアー:映画評論家  寺脇 研  さん

 各地で早くも夏日が続いた週末の6月3日(土)、「監名会 第132回」が開催された。会場は改修工事を今年5月に終えたばかりのフィルムセンター(京橋)の小ホール。
 今回は昨年2月に亡くなられた高千穂ひづるさんの追悼上映会。高千穂さんは当会の第93回、第111回、第124回のゲストにおいでいただいている。上映作品は、松本清張 原作の『ゼロの焦点』(1961年)。監督は昭和の名匠 野村芳太郎。
 
 物語は、見合い結婚した新妻 禎子が、金沢へ出張に旅立つ夫を上野で見送る場面から始まる。夫は出張先でそのまま行方不明となり、夫を捜すため金沢に出向いた義兄まで青酸カリ中毒で死亡。禎子自ら金沢に赴き、夫が親しかった会社社長やその夫人と会い、夫の足取りを辿るうちに、夫の前職がパンパン(売春婦)の取り締まりをする巡査だったことが判明…。北陸地方を舞台に、太平洋戦争敗戦後の混乱期を生き抜いた女性の悲しみに端を発する連続殺人事件が描かれる。クライマックスでの印象的な断崖絶壁シーンは、後年のTVサスペンスの原型となる。

 上映後は、本作で重要な役を演じた高千穂ひづるさんと宝塚時代からの親友であり、同時代の映画界で活躍された俳優の上月左知子さんをゲストにお迎えしてお話を伺った。インタビュアーは映画評論家の寺脇研さん。寺脇さんは当会ゲストとして高千穂さんが最後においでいただいた会でもインタビュアーを勤められた。司会進行は俳優の林まりえさん。

 上月さんは黒いジャケットにロングスカートというシックな装いで登壇され、チャーミングな微笑みと軽やかなおしゃべりで会場の観客を魅了した。終戦後の宝塚では、一期生に八千草薫さん、二期生に高千穂ひづるさん、三期生の上月さんと有馬稲子さんが同期という華やかな顔ぶれ。上級生達から下級生達は「三階席まで台詞が聞こえなかったら舞台に立つ資格はない」と厳しく指導されるなど、宝塚ならではのエピソードも。
また、舞台で共演された高千穂さんと上月さんは、宝塚での習わし通りに互いの本名で「コイちゃん(上月さん)」「二出川さん(高千穂さん)」と呼びあっていたという。当時の宝塚では、実年齢に関わり無く一年でも先に入った方が絶対的な上位に立つという風習があり、高千穂さんと上月さんは実年齢は同じでも、高千穂さんが一年上級生のため、いたずら好きな高千穂さんから色々からかわれても、当時の上月さんは逆らえなかったそうだ。公演先の宿舎で、高千穂さんが上月さんの布団に潜り込んで来た思い出など、懐かしそうに回想された。退団後は、お二人の互いの家族構成(両親と一人娘)も似ていたこともあり、よりフラットな友人としてのお付き合いが続いたと微笑まれた。

 寺脇さんは本作について、後年のリメイク版とは全く異なる秀逸な作品と指摘。「女優さんの重み」や「時代の重み」が滲み出る本作に、「昔の日本映画の力」を改めて感じたと話された。また、高千穂さんが本作で一番多面的な芝居を求められる役柄をこなし、鬼の形相、菩薩の顔、と見事に演じ切っていたと賞賛された。

上月さんは昨年、佐々部清監督の『八重子のハミング』にご出演。当会の『子どもシネマスクール』という次世代に映画の伝統を伝える活動にもご参加頂いている。「世代的に黄金時代の日本映画を担っていた方々に、出て頂くと今の『映画が絞まる』」と、寺脇さんから更なる活躍を求められた上月さんは「今も毎朝7千歩を歩いて鍛えている」と応じられた。準備万端な上月さんに「では、私が仕事をとってきますね」という寺脇さんの力強い宣言も飛び出し、高千穂さんの尽きない思い出と未来に繋がる日本映画の力を味わいながら、和やかに上映会は閉幕した。

(文:菅原英理子 写真:岡村武則)





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