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2019年5月30日

第140回 「五番町夕霧楼」

おはなし:俳優  佐久間 良子  さん  
インタビュアー:映画評論家  寺脇 研  さん

 梅雨入りを控えた5月30日(木)、国立映画アーカイブ(京橋)にて「監名会 第140回」が開催された。上映作品は『五番町夕霧楼』(1963年)。水上勉の同名小説を巨匠•田坂具隆監督が美しい悲恋物語へと昇華させた。
 戦後間もない昭和25年、与謝半島の寒村に暮らす娘・夕子(佐久間良子)は、貧しい木樵の父や肺病の母たちのため、京の色町・五番町夕霧楼の遊女となる。裕福な西陣帯の織元・甚造の贔屓を得て売れっ妓となる一方、幼馴染みの青年僧•正順(河原崎長一郎)と再会。客として訪れる正順が夕子の心の支えとなるが、夕子を妾にと心積もりする甚造が、正順の廓通いを修業先の寺に密告し、二人は引き裂かれる。ほどなく夕子は肺病で入院し、人生に絶望した正順は寺に放火して自殺。事件を知った夕子も入院先から消え、故郷で自ら命を絶つ。
 上映後は主演の佐久間良子さん(監名会第89回にもご参加)をゲストに迎え、映画評論家で当法人前理事長の寺脇研さんがお話をうかがった。進行役は俳優の竹内千笑さん。
 佐久間さんは紫のドレープジャケットに白いネックレスとイヤリングというエレガントな装いで登壇。「五番町の遊女『夕子』でございます」という挨拶に会場は沸き立った。「久しぶりに観て感動しました 」という佐久間さんの言葉に、寺脇さんも「本当に感動的です。本作の紹介文『佐久間良子の美しさが印象的な文芸大作』はまさにその通りです」と絶賛。
 佐久間さんは東映のニューフェイス第4期生として1958年(昭和33年)にデビュー。当時の東映は、京都撮影所では時代劇、東京撮影所ではギャング映画と、どちらも主演は男性。女性は恋人役や妹役という位置付けだった。本作は東映にとって初めての女性主演作品への挑戦。清純派だった佐久間さんは前作の任侠映画『人生劇場 飛車角』で初の汚れ役を好演し、本作主演に抜擢された。デビュー5年目の25歳の佐久間さんの体当たりの演技で大ヒット。寺脇さんいわく「東映初の女性映画。社運をかけた作品でしたから、佐久間さんの存在が東映に女性映画を作らせたとも言えますね」。
 当時を振り返り、佐久間さんは「今でも忘れられない思い出です」と、封切り日にプロデューサーで東京撮影所所長の岡田茂さん(後の東映社長)が満員の映画館の一番後で鑑賞した際のエピソードを明かす。ラストシーンで夕子の父(宮口精二)が娘の亡骸を抱いて嘆く「何故死んだ。辛いことでもあったんか」という台詞に、観客は涙にむせび、幕が降りても誰一人として劇場から出ていかなかったという。その光景を見て、不退転の覚悟で製作に挑んだ岡田さんは思わず落涙。佐久間さんも感慨深げに「あの感動は忘れられません 」。
 田坂監督の演出について佐久間さんは「まだ『芝居』というものをよく知らない新人の私をよく見てくださってました。何度もテイクを重ねるのではなく、日常の私の姿を研究し、『芝居』をいい具合に引き出してくださるのです」「演じ手の『心』というのか、『素』で素直に演技させてもらいました。監督は役者が頭で考えて作った嘘の芝居はお見通し。ストレートに自分が感じたこと、自然に湧き上る感情。そうしたものを大切にしてくださいました」。寺脇さんも「監督自身の流儀を役者にはめ込むのではなく、役者に合わせて演出されたのですね。流石は巨匠です!」と応じ、「監督は被爆体験者。原爆や組合活動など当時の世風を色濃く反映した要素がたくさん盛り込まれた作品でした。でも、それを含みおいても、本作はまさに『女性映画』であり『大恋愛映画』そのものですね」。
 撮影現場での印象に話が及ぶと、佐久間さんは「『田坂組』という「場の空気」が出来ていて、監督をはじめスタッフの皆さんがカメラの回っていない時も、私を『夕子』『夕子』と役名で呼んで育ててくださり、役に成り切らせてくださったことも大きかったです。皆が同じ方向を向き、日数をかけてじっくり制作する。これは、映画作りにおいて大切なことと感じました」。 その言葉に、寺脇さんも「昔の映画は本当に丁寧に作られてましたね。映画を作る立場としても、それを教える立場としても、是非、後世に伝えて行きたいと思います。また、名作をたくさんの人に観てもらいたいです」と熱い抱負を語った。後の世に伝えて行く価値ある作品に触れた喜びと余韻のうちに上映会は閉幕となった。

(文:菅原英理子 写真:岡村武則)





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