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第028回 映文振センター「子ども映画館」  竹下資子 館主

地域で育む「考える力」

「映画初体験、それは社会への窓口」
 町に映写機とフィルムを載せたトラックがやってきます。そのトラックの後ろに群がる子どもたち。これは、スペインのビクトル・エリセ監督「ミツバチのささやき」(1973年)の冒頭のシーンです。主人公の少女は、その映画を通して大人の世界を垣間見ます・・・ 幼い頃、映画を通して新しい世界を発見した方も少なくないのではないでしょうか。「映画を通して、倫理観、人生の生き方を示していければ」、映文振センター事務局長、竹下資子さんは、そんな思いで現在、各地の行政機関、法人と協力して映文振センター「子ども映画館」の活動を進めています。

「原点は映画撮影所」
明治大学で演劇を専攻した竹下さんが選んだ道は映画のスクリプターの職。その当時、日本映画は斜陽期にはありましたが、各社の撮影所では、16ミリフィルムによるテレビ映画製作が行われはじめていました。製作費や各映画会社の方針に合わない等の理由で劇場用映画を撮れなくなった往年の名監督たちは、テレビの世界で活躍されていました。竹下さんは、東映、日活の撮影所でそういう巨匠たちのもとスクリプターをつとめました。「本当は助監督を希望していましたが、当時女性の募集枠はなく、それなら監督の秘書役とも言えるスクリプターの職を」選んだそうです。撮影所では名匠から演出をはじめとして人間としての生き方など、さまざまなことを学んだとのこと。やがて、大作「金環蝕」(山本薩夫監督 昭和50年)を最後に、映画の製作現場から身を引きました。

「監名会から子どもシネマスクール」
 子どもも4才と3才になり竹下さんは、上映会活動を始めます。かつて撮影所で知遇を得た監督たちを招いて代表作を上映し話を聞くという「監督と共に名画を見よう会」(現「監名会」)という上映会組織を立ち上げます。第1回は、昭和56年11月「警察日記」(昭和30年)でゲストは監督の久松静児さん。5才でこの映画に出演していた女優の二木てるみさんもかけつけてくれました。監督や出演者・スタッフを招いての上映会は好評を呼び、本年5月には104回を迎えます。その一方で竹下さんは、新しい試みを始めます。それは、子どもたちがプロの映画人と一緒に映画を作り上げる「子どもシネマスクール」です。「機材の向上で、誰もが手軽に映画らしきものを撮れるようになり、昔の職人の仕事としての技術伝授が、撮影所の崩壊によって失われてしまった」、 この危機感が、スクール創設のきっかけでした。1回目は西東京市で撮影された「ぼくらの夏休み」(平成14年)。公募で集まった小中学生たちを指導し、作品の監督を務めたのは後藤俊夫監督でした。

「子どもたちのための映画館」
 各地の行政や学校、団体の協力を得て「子どもシネマスクール」は以降平成21年度第8回迄毎年行われてきました。2回目より美術監督の大御所、木村威夫さんがこの事業に参加します。瀬川昌治さんや松林宗恵さんなどの巨匠も、木村さんと仕事ができる、ということもあって後々参加してくれました。
 出来上がった作品をぜひ上映したいと、竹下さんは事務所のある新宿区に働きかけます。新宿区には大人が見るための映画館はたくさんありますが、子どもが見るための映画をやっているところがありません。そこで竹下さんは、新宿区の子どもたちを中心とした、保護者、お年寄りを対象に映文振センター「子ども映画館」を実施することに。建物はなく、あくまでもバーチャルで出前上映です。「当法人が新宿区の登録NPO法人ということもあり、児童館やデイサービス施設等で上映活動をさせてもらっています。子ども達は「すごく面白かった!」「また違う映画を見せて!」と、とても楽しんでくれています。上映中の子どもたちの反応はとても素直で、たとえば映画の中の「姿勢が悪い!」というセリフに反応して、みんな一斉に姿勢を正したりしていました。このような反応をみると、きっと映画の内容も子どもたちの心の中に届いていると思います。これからの人生の様々なところで、知らないうちに影響していくことになってくれたらと思っています」。


ちなみに、子どもシネマスクールのプロデューサーでもある竹下さんは、作品の内容についての思いを「もっと地域で、子どもたちを育てるべきで、何かを教えようとする前に、大人が正しく生きようとする姿勢が、何よりの教育なのではないでしょうか。子どもたちは、何もかも見ていて、環境で育つのだと思います。そんな気持ちから私は、いつも「子どもシネマスクール」のドラマの内容を企画してきました」と語った。
(取材 木村昌資)





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