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第013回 (モンゴル映画が大好き)
 近年モンゴルでは映画製作は非常に困難になっている。しかしビデオによる作品は作られており、1998年の「新文字先生」と、2001年の「心の言葉」は、いずれもアジアフォーカス福岡映画祭で上映されて、大変好評で福岡市綜合図書館に所蔵された。
 「新文字先生」は、1950年代の草原の放牧地の物語である。町の寄宿制の学校に行っている小学生の少年が夏休みに村に帰ってくると、村長から、村でまだキリル文字を知らない大人たちにそれを教える先生をやらされる。こうして子どもが大人に文字を教えるという出来事を中心にして、草原の村でのさまざまな愉快なエピソードが、明るくユーモラスに、民族的な素晴らしい歌曲などもまじえて微笑ましく描き出されてゆく。そう言うとなにかごくたあいのない素朴な喜劇にすぎないと思われるかもしれないが、実はそこには厳しい民族的な経験が盛り込まれている。
 モンゴルには固有の民族的な文字があるのだが、ロシア革命の時期にロシアの指導の下で社会主義化すると、まず文字はローマ字に変えることを強制され、次いでロシアで使われているキリル文字に変えさせられた。1990年に社会主義が崩壊したあとにはモンゴル文字が復活し、子どもたちは学校でそれを学んでいるが、大人たちはもう分からない。現代のモンゴルにおけるこういう文字使用の複雑な歴史がこのストーリーの背景にはあり、一見明るく愉快な喜劇の中に、他民族による文化支配を受け入れてきたモンゴル人の苦渋が、苦笑として表現されているのである。
 「心の言葉」はシリアスなドラマである。ノモンハン事件があったが、このときモンゴル兵として戦闘に参加した男が、負傷して病院で介護され、その看護婦と愛し合うようになって7年も故郷に帰らない。残された妻は、娘を育てながら義母と一緒に草原のテントで暮らしている・・・。
演出、演技、撮影、音楽など、いずれも立派な本格的なもので、戦争で引き裂かれた夫と妻、父と娘の悲劇を、格調高く、美しく、深い感情をこめて描き出している。決してメロドラマではなく、 草原の人々の生活の描写も見事である。
(映画評論家 佐藤忠男)





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